在留期限の失念が引き起こす不法在留の違法性と企業・外国人双方が負う法的リスク
出入国在留管理庁(旧入国管理局)の審査実務および関係法令において、在留資格の適正な管理は企業・外国人双方にとって最優先で遵守すべき義務となっています。外国籍社員が保有する「技術・人文知識・国際業務ビザ(以下、技人国ビザと表記します)」の在留期限を、会社や本人の失念により1日でも経過してしまった場合、その時点で出入国管理及び難民認定法(入管法)第70条に規定される「不法在留(オーバーステイ)」が成立します。これは3年以下の拘禁刑、又は300万円以下の罰金という刑事罰の対象となる法令違反行為です。在留期間の満了とともに、当該外国人は日本国内に合法的に滞在する法的根拠を失い、即座に退去強制事由(入管法第24条)に該当することになります。
この事態がもたらすリスクは、外国人本人だけに留まりません。雇用主である企業側に対しても、不法在留状態であることを知りながら、あるいは当然に確認すべき在留期限の管理を怠って就労を継続させた場合、入管法第73条の2に規定される「不法就労助長罪」が適用されます。この罪の法定刑もまた5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはこれの併科と非常に重く、処罰の対象は法人のみならず、人事労務の責任者や代表者個人にも及びます。2025年6月に3年以下の拘禁刑 もしくは 300万円以下の罰金。またはこれの併科から、さらに厳罰化されました。
在留期限が切れてしまった直後に企業が即座に実行すべき初動対応
万が一、自社の外国籍社員の在留期限がすでに超過している事実が発覚した場合、企業が取るべき最初の行動は、該当する社員の就労を直ちに停止させることです。不法在留状態の外国人に業務を継続させることは、その瞬間も不法就労助長罪の構成要件を上書きし続けることを意味するため、発覚した瞬間に労務の提供を止め、自宅待機等の措置を講じなければなりません。「生活費が稼げなくなる」「仕送りが出来なくなる」等の安易な同情から今月のシフトが終わるまでなどと業務を継続させることは、企業コンプライアンス判断上の最悪の選択肢です。
就労を停止させた後、速やかに本人の在留カードの原本、パスポート、および所持している場合は過去の申請控え等の書面を確認し、正確な事実関係を把握します。「本当に申請をしていないのか」「本人が会社への報告義務を忘れていただけで内々に申請を済ませていた」といった事実を、本人の供述だけに頼らず客観的な証拠に基づいて確認します。もし完全に失念しており、猶予(申請を期限までに提出していれば最長2か月までの審査猶予)期間もないことが確定した場合は、隠蔽を図ることは絶対に厳禁です。出入国在留管理庁へ自発的に出頭し、違反の事実を正直に申告する準備を整えなければなりません。自発的な出頭は、身柄の強制収容を回避し、在留特別許可や出国命令制度の適用を受けるための重要な判断要素となります。
オーバーステイ発覚後の出入国在留管理庁への出頭手続きと実務における救済措置の限界
完全に在留期限を徒過してしまった外国人社員を救済し、再び日本国内で合法的に就労可能な状態に戻すための手続きは、通常の在留期間更新手続きとは全く異なる厳格な法的判断を伴います。原則として、オーバーステイとなった外国人は退去強制手続きの対象となりますが、出頭の上で在留特別許可(入管法第50条)を求める、あるいは出国命令制度(入管法第68条の2)の要件を満たしていることを確認する手続きへと移行します。特段の悪意がなく、単なる会社の管理ミスや本人の過失であり、かつ日本での在留実績が極めて良好である場合に限り、人道的な観点や諸般の事情を総合的に勘案して、例外的に在留を継続できる許可が下りる事例も存在します(日本人配偶者がいる、その配偶者との間に子供がいる等)が、これはあくまで温情としての裁量処分であり、確実な法的権利として請求できるものではありません。むしろ昨今では厳罰化の傾向が強いです。
出頭の際には、なぜ期限を忘れてしまったのかという経緯を詳細に記した理由書、企業の経営状態を示す財務関係書類、本人の雇用契約書や職務内容説明書に加え、企業側が作成する「今後二度とこのような管理不備を起こさない」ための具体的な再発防止策を盛り込んだ上申書など、複雑な書面を提出する必要があります。これらの書面において、事実に反する虚偽の記載や曖昧な推測を交えることは、不許可および強制退去へと直結する危険性を内包しています。専門的知識があっても判断の分かれる局面であるため、企業が独自の判断で安易に書面を作成して出頭させることは厳に慎み、実務に着手する前に、必ずビザ業務に知悉している行政書士に確認し、万全のサポートを受けることを強くお勧めいたします。
再発防止策と管理体制
タナカイサオ行政書士事務所は、これまでに数多くの企業・外国人を双方サポートしてまいりました。証明不足や書類の不備、あるいは管理ミスによって不許可処分に発展してしまった案件に対しても、対応可能なノウハウを蓄積しております。ですが、企業のコーポレートガバナンスにおいて最も重要なのは、このような危機的状況を未然に防ぐ管理体制を社内に構築することです。
有効な再発防止策としては、まず人事労務管理システムにおいて在留期限の「3ヶ月前」「2ヶ月前」「1ヶ月前」に自動的に人事担当者と外国籍社員の双方にアラートが通知される仕組みを導入することです。技人国ビザの更新申請は、在留期限の3ヶ月前から受付が可能となるため、この受付開始と同時に速やかに社内手続きを制度化しなければなりません。また、採用段階において、内定者が保有する在留資格の種類や期限を必ず一次情報である在留カード原本を目視で確認記録、および法務省の在留カード等番号失効情報照会を用いて確認し、雇用契約書の締結と同時に更新スケジュールの策定を行うスケジュール逆算型の管理を徹底することが、企業の社会的信用と外国籍社員の生活を守るための必須項目です。
